はじめに
四肢不全麻痺を呈したラブラドール・リトリバーを診察させて頂く機会がありました。大型犬特有の頸椎の疾患を考えたのですが診断結果としては頚部椎間板ヘルニアでした。
今月の患者さん
ラブラドール・レトリバーの男の子
もともと大型犬ですから大きいことは当然なのですが、それでも体が極めて大きく、四肢も胴体もお顔も大きいワンちゃんでした。
症状
前足、後ろ足とも動かない。横たわってしまっている。
身体検査
身体検査では四肢の不全麻痺が有るので、きっと何らかの頸椎の疾患だろうと予測を立てました。
ここまで大きいワンちゃんが動けなくなりますと、神経学的検査も困難を極めます。(涙…)
頸椎に重大な問題があると判断し、
(画像診断の検査センターで)MRI検査を行うことにしました。
MRI所見
第2-3頸椎、第3-4頸椎の椎間板ヘルニアを疑う所見。 こちらの写真が(写真1)、第2-3頸椎のMRI検査の写真です。綺麗に写真が撮れています。 右側の写真からすると脊髄への圧迫は少ないのかもしれません。
写真1
次の写真が、第3-4頸椎のMRI検査の写真です。(写真2)
先ほどの第2-3頸椎の椎間板の状態よりも悪い事が分かります。
脱出した髄核が脊髄を圧迫しているように観察されます。
写真2
診断
頚部椎間板ヘルニア(第2-3頸椎、第3-4頸椎の2カ所に発生し尾側病変(第3-4)の方が重度)
治療
外科的治療を実施
治療方法がとってもとっても悩みました。(涙…)
- 手術部位を2箇所にするべきか?もし2カ所を手術した場合は手術した頸椎が弱くなるので術後の合併症に苦しむ可能性もあります。それでも2カ所を手術しなければならないなら、合併症を出さない為の、頸椎の固定方法が有るかどうか??
- 手術部位を1カ所にとどめるべきか?もし1カ所にとどめた場合に、現在発症している症状が治るのかどうか?もし治らなかった場合に再度手術を行う事になった場合に、どんな方法で再手術をするのか??
とにかく、悩みに悩みました。いろんな先生にも相談してみました。
結果
第3-4頸椎の外科治療を選択しました。ベントラルスロット法により脱出した髄核の摘出を行いました。
脊髄造影検査:どうしても心配だったので、手術の前に脊髄造影を実施しました。(写真3)
写真3
手術時所見
第3-4頸椎間にベントラルスロットを作製したところです。(写真4)真ん中に見える小さな穴が、作製したスロットです。
そこから脱出した髄核を摘出しました。背側縦靭帯見えているので更に脊髄の底の部分が見えるまで綺麗にしたかったのですが、出血が多くこれ以上進めるのがかえって危険と判断し、髄核の摘出が終わった段階で終了しました。
写真4
経過
しばらくは入院で運動制限を行いました。とっても経過が良かったのですが、しばらくして急に首を痛がり始めました。(もう1カ所のヘルニアが悪化したのかも…とドキドキしました。)
追加的に行った内科療法に割と反応してくれました。結局3週間以上の入院となってしまいましたが、現在は歩行状態も大きく改善しオーナー様のご尽力でリハビリテーションに励んでらっしゃいます。
まだまだ良くなると期待しています。
最後に
大型犬の頸椎の疾患なので、ウォブラー症候群をまず疑いました。予想に反して頸椎の椎間板ヘルニアでした。
手術後は首輪は厳禁ですし、段差の移動も極力控えて頂きます。
今回手術した部分の前後の椎間板が再び悪化する可能性がありますので、今後も注意が必要です。
でもまずは歩けるようになって本当に良かったです。