とりい動物クリニック 静岡県富士市の動物病院

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意外と知られていない中毒について

「中毒」という言葉から皆さんはどのようなものを想像されるでしょうか。有名なところでは「食中毒」というものもありますし、 人間の場合には何か夢中になることに対して中毒と表現したりすることがあります。この「中毒」は日常生活ではあまり縁のないものだと思う方がいらっしゃる かもしれません。ところが実際はそうでもないようで、ごくありふれたところに「中毒」を起こしやすい要素が非常に多いことを知っておく必要があります。今 回のテーマは日常生活で遭遇することの多い「意外と知られていない中毒」について説明いたします。

中毒とは

「大辞泉」によりますと、「生体内に入った薬物・毒物や生体内の代謝産物によって病態や機能障害が生じること。経過から慢性と急性とに分けられる。」とありま す。要するに何か毒になるものが何らかの形で取り込まれたことによって起こるさまのことだそうです。特に動物の場合に中毒を起こすきっかけになるもので最 も多いのが、誤食です。それが明らかに毒とわかるもの、あるいは人間にとっては毒でなくても犬や猫にとっては毒となりうるもの、さらには通常体内に取り込 む量であれば何の問題もないのに多量に摂取することによって生じるものあり非常に多岐にわたります。実際に動物に関係する中毒の種類は多すぎて把握できな い位あります。中毒の程度により軽度で済むこともありますが、死亡することだってあり得ます。
その中で、動物病院で比較的診る機会のある代表的な中毒が以下のものになります。

タマネギ中毒

これはかなり有名な中毒なので御存知の方が多いのではないでしょうか。タマネギをはじめ、ネギ、ニンニクを摂取しても起こります。
有毒成分は「N-プロピルジスルフィド」といい、血液の色素の成分であるヘモグロビンを変性させます。これにより溶血という現象を起こし、貧血症状になり ます1)。血液をニューメチレンブルーという染色液で着色して見ますと「ハインツ小体」という青い斑点が赤血球に見られます。

ハインツ小体
写真 ハインツ小体 赤血球のなかに見える濃い青色に染まっているものがハインツ小体です

中毒量はかなり個体差があるようで、大量に食べても無症状の場合もあれば、タマネギから出たエキスを飲んだだけでも中毒を発症してしまう場合もあります。タマネギの混入が疑わしいものは口にしないことが賢明でしょう。
以前経験した中では、かき揚げやオニオンスライスなどで発症した例があります。

たまねぎ
写真 たまねぎ ご存知の通りですが…

たまねぎスープ
写真 スープといえども決して侮ってはいけません

チョコレート中毒

最近「チョコレートを食べちゃったんだけど・・・」という問い合わせが非常に多いです。このチョコレートも実は大変な中毒症状を起こすことで知られていま す。中毒を起こすといわれる成分はカカオに含まれる「テオブロミン」といいます。このテオブロミンは人間にはリラックス効果があるといわれ、気分を落ち着 かせたいときなどに食べると効果があります。が、動物では多量に摂取すると以下のような症状1)を起こします。

チョコレートに含まれるテオブロミンの量はどの程度かといいますと、
菓子用チョコレート
400mg/oz→13.3mg/g
ダークチョコレート
150mg/oz→5mg/g
ミルクチョコレート
50mg/oz→1.7mg/g
※ 1オンスは約30gとして換算

中毒症状はテオブロミンの量が100mg/kgでおきはじめ、致死量は250〜500mg/kgで発生するといわれます。ということはダークチョコであれば体重1kgあたり20gのチョコレートを食べると中毒が起こりうるということになります。
ここ最近はチョコレートに含まれるポリフェノールが体によいということでカカオ含有率の高いチョコレートが人気ですが、その場合より少量でも中毒を発生しやすくなりますのでご注意ください。

チョコレート
写真 チョコレート(イメージ)

余談:個人的には高カカオのチョコレート好きなのですが…間違っても動物にあげてはいけません。

キシリトール中毒

歯の再石灰化作用があり虫歯予防の面で非常に注目されています。日常生活の中では、特にガムや甘味料に含まれていることが多いです。歯によいと謳われている ため、つい動物にもよいと思われがちですが、これが最悪の場合死を招きかねない悪影響を及ぼすことが知られるようになりました。
キシリトールの大量摂取によって引き起こされるのは、まず低血糖です。これにより元気の低下やふらつきあるいは低血糖発作などが見られるかもしれません。 これは人間と違ってキシリトールが体内に入ると大量のインシュリンが動員されるためといわれます。さらにもうひとつ問題なのは肝臓にも重大な影響を及ぼす 点で肝酵素の上昇がみられた報告2)があります。アメリカで死亡報告例がありましたが、その際はラブラドールレトリバーがキシリトールガム100個を誤食 して起こったそうですが、データによると10kgのビーグルでキシリトール1gでも治療が必要とのことのようです3)(注)。
ただこの案件に対して考えなければいけないのは、食物中にもキシリトールが含まれているものがあるのですが(たとえばイチゴ)、それらも摂取すべきでない のかという点です。議論の余地はあるかと思いますのでこれはあくまでも主観になりますが、おそらく一般的な食物に含まれている分についてはよっぽど過量で ない限りは低血糖にならないのではと思います。いわゆる添加物のキシリトールと自然に含まれた分のキシリトールとで作用がまったく同じかどうかも「?」で す。ただし、添加物としてガム等に含まれたものについては過量だと危険であるといえるのではないでしょうか。
それから、ペット用のデンタルケア商品の中にキシリトールが含まれているものがちらほらみられます。これらについてはどうかという点ですが、これもあくま で個人的な意見だということを前置きして記載しますが、犬のデンタルケアにキシリトールは必要ないのではないかと思います。理由として、犬ではほとんど 「虫歯」にはならない点が挙げられます。人間とは唾液の質が異なる為といわれます。もうひとつはやはり動物に対するキシリトールの安全性という面で(神経 質になりすぎなのかもしれませんが)という理由です。
(注)今後キシリトールに関する研究や報告がなされると思いますが、それにより詳細が解明されるものと思われます。
こちらもご参照ください4)

キシリトールガム
写真 キシリトールガム 犬猫には与えないように

薬物による中毒

人間の薬物による中毒も非常に多くみられます。比較的多く遭遇するものとしては、心臓病の治療薬、睡眠導入剤、鎮痛剤などの過量摂取が多いように思います。これに限らず、薬は過剰に飲むと毒になりうることを忘れてはなりません。
飲み込んだ薬によって症状や対処法が異なります。

錠剤
写真 錠剤(イメージ) 量を間違えると薬も毒となりえます

もし動物が中毒と思われる症状が現れたら

まず病院に連絡することをお願いします。お伝えいただきたいのは、「いつごろ」「何を」「どのくらい」食べたあるいは飲んだのか、さらに「今の状態」です。 その際にこちらの指示を受けてください。来院される場合には、食べたあるいは飲んだであろう物、もしくはそれと同等のもの(商品名がわかるとなおよいで す)を持ってきていただくとよいでしょう。

動物への誤食、誤飲はある程度予防可能です。基本は「動物の 近くには食べられて困るようなものは置かないこと」です。実はいろんなところに中毒を起こしうるものがあるのです。ほかにもいろいろありますので、不明な 点はウェブ検索あるいは動物病院にお尋ねいただくとよいかと思います。

参考文献

  1. Osweiler GD (2003):小動物の中毒学, 305-306 391-392, NEW LLL PUBLISHER.
  2. 伊藤裕二 (2006):第15回中部小動物臨床研究会プロシーディング, 88-89.
  3. Dunayer EK, Gwaltney-Brant SM (2006):J Am Vet Med Ass, 229(7):1113-1117.
  4. 鈴木忠彦:獣医学Q&A犬のキシリトールについて(日本獣医学会ホームページ http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/10_Q&A/i20061025.html)