とりい動物クリニック 静岡県富士市の動物病院

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Topics

珍しい骨折(成長期の動物に見られる骨折)

はじめに

私、獣医となり小動物臨床の現場で仕事をして10年になります。そんな中で私自身が体験するのが初めてのタイプの骨折に遭遇しました。いろんな特色や専門 技術を持った動物病院がありますので、一概にどこでも珍しいと言う訳ではないかもしれませんが、こんなところの骨折も起こるのだという意味でご紹介させて いただこうかと思います。

今回の患者さん

主訴

シャンプーをしようとしたら急に驚いて家の柵に脚が挟まってしまった。
その後から後ろ足をビッコ引いている。

診察では右後肢の完全な跛行と同患肢膝関節周囲の高度の腫脹を認めました。さらに足根関節伸展時の疼痛が観察されました。
それからレントゲン写真を撮影しました。

診断

レントゲン検査所見では脛骨近位の成長端が分離骨折を起こしていました。分離骨折を起こした骨の断端は尾側に変位しているのが観察されます。(写真1および写真2)

右側脛骨近位成長端分離(Salter-Harris タイプ(2)

ちなみに骨の発育の上で最も重要な部位は骨幹端の成長板です。骨はこの部位で軟骨内骨化の過程によってきわめて急速に形成されます。骨折や内固定によって この部位に何らかの妨害が生じると、骨の成長と発育におおきな影響を生じます。成長板はそばにある骨や関節の構造よりは力学的に弱く、その為に成長板の骨 折の発生率が高くなっているのです。またそれは未成熟な動物で見られます。

写真1
写真1

写真2
写真2

成長板や骨幹端の骨折(分離骨折)の分類法(図1)
最もよく用いられる分類はSalter-Harrisシステムで(Salter and Harris, 1963)、これは認められた損傷を6つのタイプに分けています。
タイプ(1)完全な骨折で、軟骨細胞増殖域を通るもの。
タイプ(2)部分的に骨幹端を含むもの。
タイプ(3)関節内骨折で軟骨細胞増殖域および成長板から辺縁へ沿って。
タイプ(4)関節内骨折で骨端、成長板、そして骨幹端を横切るもの。
タイプ(5)発育している細胞を破壊するような挫滅損傷。

一言で骨折と行っても、その損傷の仕方は様々です。成長板や骨幹端の骨折といった特に若齢の時期に良く認められる骨折でも、その分類は上記のように何種類にも行われています。

*インターネット関連サイト http://xray.20m.com/photo4.htmlから引用。

脛骨近位成長節の分離

これは珍しい損傷で、未成熟の患者だけに見られます。これは脛骨プラトー(高平部)が後方へ回転することに関連しており、脛骨近位の骨幹端が前内側へ変位 します。このような回転性の変形は膝をいっぱいに押すことができないので肢を使うことができなくなります。著しい跛行が見られ、
関連通と腫脹が膝に生じます。

わずかな変位だけがあるのなら、患者は保守的に治療します。キャストやスプリント(いわゆるギプス固定のことです。)がよいこともありますが、管理には厳 密なゲージレストを含めるべきです。プラトーが後方へ変位した症例は全て、早期に開いて整復し、内固定を行って関節の適合性を再確立させてやります。この プラトーはクロスKワイヤーか体の髄内ピンを大きな患者に入れてもとの部位に留めてやります。もし粗面結節がプラトーに接したままならば、これにインプラ ントを付けてやるとこれが関節縁から離れずにそのまま残ってくれます。

治療

症例は翌日手術を受けました。
手術法は上記の記載に有るような方法で、骨折部位を3方向からKワイヤーと呼ばれる手術用の硬い針金を用いて固定します。骨折して変位した骨片をまずは骨 折する前の元の位置に整復します。それぞれの骨片を整復した後にそれらが動かないようにきちんと保持をします。(とはいってもこの部位に適応出来る把持鉗 子が無い為に、助手の先生が動かないように持っていることになります。)きちんと保持をしながら仮止めの為のワイヤーを挿入していきます。そのワイヤーが きちんとはいっていれば、あとは順に残り2カ所の固定を行います。この部位の骨片は非常にもろく手荒に扱うことによりさらに骨片が破損します。場合によっ てはさらに骨折を広げてしまうことも有ります。

慎重にゆっくりと細いKワイヤーを1本ずつ刺入していきます。(写真3および写真4)

必要なピンの刺入が終了したら再度レントゲンで固定場所の確認を行います。固定が適切に行われていたら手術の為に切開した筋肉や関節包ならびにその他の組織を元通りに縫合していきます。
写真4

写真5

術後管理

手術を受けたワンちゃんはロバートジョーンズ包帯法という方法を用いて患肢を動かないように固定します。目的は膝の関節を伸ばしたままにする為のもので、 固定部位に大きなストレスがかからないようにします。本包帯法は1週間継続しました。また同時に運動制限を行います。約4週間、運動制限を行い固定部位に ストレスがかからないようにします。

現在、手術して2ヶ月程になりますがワンちゃんはすこぶる元気でお散歩を少しずつ増やしているようです。レントゲン検査で骨折部位を確認しても骨折の治癒の過程が観察され、きわめて順調に経過しています。

インプラント(手術のときに固定した器具のこと。)は3ヶ月程で除去するようになります。きっと思いっきり走れる様になると期待しております。

さいごに

未成熟の動物の骨折は骨の成長板の分離を伴うものがよく認められます。成長板の分離骨折は長骨の端で起こるので、骨折の場所によってはその整復、固定が困難なことも有ります。元気いっぱいのワンちゃんで運動量が多い子などは特に注意したいものです。