ソケイヘルニア(鼠径ヘルニア)とは?
股の付け根付近をソケイ部と呼びます。
本来、お腹の中に納まっているはずの臓器(腸など)が、皮膚をかぶって外に飛び出して、膨らんだ状態をヘルニア(いわゆる脱腸)といいます。ソケイ部に脱腸が起こった状態がソケイ(鼠径)ヘルニアです。その他にはお臍の部分に
起ったものを臍ヘルニアと呼びますし、会陰部(肛門と陰部の間)に起ったものを会陰ヘルニアと呼びます。軽症例では押せば元に戻るので(かんのう性)病的 な症状が必ずしも出るとは限りません。ただし、脱出した腸が戻らなくなると腸閉塞となり腸が腐ってしまう(壊死)場合があります。脱出した腸が戻らぬ場合 は緊急の手術が必要となります。(かんとん状態)
原因
先天的にソケイ部の筋肉に異常があり、お腹の筋肉が無い部分(つまり筋肉の穴)が形成されその部位から脱腸してしまうことが多いようです。
症例
3ヵ月齢のワンちゃんです。突然の腹痛、食欲廃絶、吐き気、内股のしこりを理由に来院しました。
診察
体重減少、左ソケイ部の腫脹(リンパ節かな、それともソケイヘルニアかな?)を確認したが、非常に硬い腫瘤でその部分を触ることにより痛みがありました。
胃腸系の症状とソケイ部の腫脹がありましたので(かんとん性)ソケイヘルニアによる腸閉塞を疑い検査を実施いたしました。
検査
検査はガストログラフィンという名前のお薬を強制的にワンちゃんに飲ませて経時的にレントゲンの撮影を行ないます。(一般的にはバリウム造影が有名ですね。)
写真1 造影剤投与直後のレントゲン写真です。
胃の中に白い色をした造影剤が認められます。
写真2 造影剤投与して100分ごのレントゲン写真です。
依然として胃の中に造影剤が認められます。まだ小腸の領域に造影剤が入っていません。
通常はこの段階になりますと胃の中から小腸早いものですと大腸に移行していきます。つまり胃の中に残留していることは消化管の通過障害を示します。
写真3 造影剤を投与して翌日17時間ごのレントゲン写真です。
実は写真2を撮影してしばらくして吐き出してしまったので消化管の中には造影剤はありません。
手術
検査でバリウムの通過障害を明らかに認めたため、閉塞部位は確定できませんでしたが腸閉塞の疑いを強く持ち開腹手術を行いました。
写真4 手術時の写真です。指で示します部位は小腸がヘルニアを形成している様子です。
お腹の筋肉の穴から脱腸してしまっております。引き戻そうとしても かたく絞められており戻すことは出来ません。筋肉を切開して腸管を引き出しました。(写真4)
写真5 脱腸していた腸管を引き出したところです。
ヘルニアを起こしていた腸が黒く変色しています。(壊死しているかも?)
写真6 ヘルニアの穴を縫い合わせ、腹腔内を生理食塩水で洗浄しているうちに先程の腸がよい色を取り戻してきました。血管を観察しているときちんと血流が認められました。(この段階で腸を切除する方法をとらずに、自然治癒を期待して温存する方法を選択いたしました。)
これで手術は終了いたしました。この後のワンちゃんの調子はすこぶる快調です。翌日には多量のうんちを排せつし、飲水、食欲とも旺盛です。このままで行けば順調に退院できそうです。
まとめ
かんとん性で腸閉塞の症状を持ったソケイヘルニアは頻繁に起る病気ではありません。ソケイヘルニアはよく認められますが緊急状態となることは珍しいのではないかと考えています。腸の壊死が認められればその部位は切除しなければなりませんので、小腸の端ー端吻合術が必要になります。予防法としてはかんのう性でも小さな病変でも早期に見つけることにより、早期治療が期待 できます。どんなヘルニアでもこの様なに万が一の病状がありますので注意が必要です。