とりい動物クリニック 静岡県富士市の動物病院

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イボですか?それともガンですか?(犬の肥満細胞腫)

2004年 4月

今月は、犬の肥満細胞腫という皮膚にできる腫瘍を手術によって摘出する機会がありましたので、その事について今回は述べさせていただきます。

肥満細胞:正常な肥満細胞は造血系または結合組織細胞に由来します。体の血管周囲、特に皮膚・皮下組織、肺実質、消化器、肝臓等に存在し、アレルギー反応や炎症過程を統合する役割を果たしています。
肥満細胞腫:文字どおり肥満細胞が腫瘍化した状態を呼びます。
犬の肥満細胞腫の発生部位は皮膚組織にもっともよく認められます。おもに体幹、後半身、四肢によく認められます。外観は膨らんでいるだけのものから潰瘍を 起こしているものまであります。毛は抜けている事もあれば生えている事もあります。多くは単発性ですが稀に(10%程度)多発性となります。好発年齢は老 齢犬に多く性差はありません。好発犬種はボクサー、ボストンテリア、ブルマスチフ、イングリッシュセッターでは危険性が高いです。私の経験ではゴールデン にも多く見られると思います。
この写真は11歳のゴールデン・レトリバーに見られた肥満細胞腫です。
(写真1、写真2)手術前の写真なので毛が刈ってあります。

イボですか?それともガンですか?(犬の肥満細胞腫)
写真1

イボですか?それともガンですか?(犬の肥満細胞腫)
写真2

写真1はお尻の所にあるできものです。大きさは2cm程度。表面は自壊して少し出血しています。
写真2は体の横にできたものです。ちゃんと見ないと分かりませんが皮膚が少しだけ盛り上がっています。大きさは1cm程度。よほど注意してみないと気がつきませんね。(放っておいたら治りそう。そんな感じすらあります。)
この腫瘤はFNA(注射器による吸引細胞診)で肥満細胞腫の診断がつきました。
腫瘍が孤立性でリンパ節病変または全身への広がりがない場合は外科的摘出が適応となります。摘出は広く深く実施し考えられる腫瘍の境界から最低2.5cm のマージンをとり、筋肉の膜まで切除しなければなりません。それでも再発をする可能性がある腫瘍です。
腫瘍摘出後の写真が下に示してあります。(写真3、写真4)

イボですか?それともガンですか?(犬の肥満細胞腫)
写真3

イボですか?それともガンですか?(犬の肥満細胞腫)
写真4

外観上はちょっと皮膚が膨らんでいるだけなのにこんなにたくさん切られちゃって・・・
たかがイボなのにこんなに切らなくても・・・
ですよね。しかし肥満細胞腫というのは非常に再発率が高く悪性の皮膚の腫瘍なのです。この腫瘍はイボのように一つのおできとして観察されますが、実はこのおできはタコの頭のようなものなのです。つまりなが〜いあしが沢山あり正常な組織に染み込むように成長を続けているのです。手術ではタコの頭だけを とっても意味がありません。あしの先端まできっちりととらなければ取り残しを起こし再発をさせてしまう事になるのです。
摘出した腫瘍は病理組織検査により更にグレード分けが3段階に行われます。このグレード分けが非常に大切な予後判定因子となるのです。
外科手術以外または手術に追加して行う他の治療方法としては放射線療法。抗がん剤を使った全身療法。グルココルチコイドを使った全身療法等があります。
イボに見えても単なるイボではない事もあります。早期発見、早期治療が原則になってしまいます。
このワンちゃんは現在病理組織検査中です。低いグレードであって欲しいですね。