とりい動物クリニック 静岡県富士市の動物病院

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(釣り針を飲み込んで食道に刺さっちゃった!)

はじめに

お家の外へ出て遊んでくる猫ちゃんは何をしてくるか分かりません。今回は猫ちゃんの食道内に釣り針が刺さり、大変なことになった症例を紹介します。
(多分、外出先で釣り針を見つけて遊んでいたのでしょうね。思わず飲み込んでしまったのでは。魚の代わりに猫を釣る様な悪い人は居ないでしょうから・・・多分・・・)

症例

身体検査所見

体温40.1℃、心拍数176回/分、呼吸数124回/分
体重5.6kg、診察時もぐったりとしているのではないが、何となく元気が無い様子でした。
その場で血液検査、レントゲン検査を行いました。

レントゲン検査所見

写真1 写真1(No.1566)

LR像(猫の体の左側面を上にして、横に寝かせて撮影した像)ちょうど心基部のところに釣り針の形をした白い線が認められます。また胸部全体は不明瞭で心臓の形もはっきりと見えません。胸腔内に滲出液(恐らく膿)がたまっていると考えられます。

写真2 写真2(No.1567)

写真1の拡大です。どう見ても釣り針ですね。

写真3 写真3(No.1568)

VD像(仰向けにして撮影した像)です。背骨と重なりよく分かりませんが、異物は確かに確認出来ます。位置としては心基部食道内です。レントゲン検査結果より、胸部食道内に釣り針があり、しかもその針が食道を穿孔し膿胸になっていると考えられます。よって全身麻酔下にて異物をとるべく内視鏡検査を行いました。

上部消化管内視鏡検査ならびに異物除去処置

写真4写真4(No.0290)

写真5写真5(No.0302)

写真6写真6(No.0303)

内視鏡を食道内に挿入いたしますと、心基部の食道内に釣り針と思われる異物の一部を発見しました。

今思えば食道内にある、白くてもやもやしたものは膿なのだと思います。
これを内視鏡下で摘出することにしました。 異物把持鉗子で摘出を試みている写真です。

写真7写真7(No.1752)

テクニックとしては、食道内に刺さっている針をこのまま頭側に引き込むことができないので、一旦胃の中に移動させることにしました。そして胃の中で針を持ち換えることにより、できるだけ安全に摘出する方法を考慮しました。使用した鉗子は、V字型把持鉗子でこれは当院の内視鏡の鉗子チャンネルからは挿入出来ない大型のものなので、外付けチャンネル(内視鏡の外についている白いくだ)を併用して処置致しました。鉗子を開くと大変大きなものがつかめるのでジャンボ把持鉗子とも呼びます。

写真3 写真8

写真8は把持鉗子で針の先端をつかみ、注意深く食道内を移動させているところです。また食道内の12字の方向に白い線が見えるとおもいます。これが釣り針の刺さっていた場所です。穿孔して時間が経過していたので、化膿しており白い膿が出ているのが確認出来ます。(ピンク色の矢印で示してあります。)この猫ちゃんは無事に針が摘出出来ました。摘出後直ちに胸腔ドレーンを挿入し、胸腔内にたまった膿を取り除き、大量の生理食塩水で洗浄致しました。ドレーンはしばらく留置しレントゲン検査で胸腔内の滲出が見られなくなるまで洗浄を行いました。膿胸の治療の為、1週間の入院は余儀なくされましたが、その後は無事に回復しました。

最後に

今回の猫ちゃんは無事に釣り針を除去し回復することができました。屋外に出てしまう猫ちゃんは、全てを監視することが出来ないのでとくにレントゲン検査で異物を発見、しかも時間が経過しているケースが多い様に感じます。よって食道穿孔による併発症として膿胸に至り、治療が長期必要になりました。針を飲み込んでも直ちに摘出できれば軽症で退院出来た可能性を考えると、室内飼育で飼育環境を安全に保ってもらうのがベストで、屋外飼育の危険性を痛感しました。やはり室内飼育が一番安全ですね。
食道内異物は基本的には緊急疾患ですから、直ちに診断し摘出することが、その後の予後を大きく左右します。