はじめに
難治性の下痢を呈して、しばらくの間は対症療法により治療していたのですが、改善傾向が見られず、最終的に内視鏡により検査しました。
十二指腸に今回の病気の原因と分かるものが認められましたので、報告致します。
今回の患者さん
トイプードルの避妊してある4歳の女の子のワンちゃんです。
このワンちゃんは以前より胃液を吐く症状があった様です。吐き方の特徴は朝方に黄色い胃液を嘔吐するという症状でした。また食事に関しては偏食傾向が強く、普段の主食をなかなか食べないので、おやつが主食になっているワンちゃんでした。
今回は1週間前から鮮血便をともなう下痢でした。また食欲は消失し頻繁の嘔吐も見られました。対症療法を行なっても改善しないということで、今回詳しく検査することになりました。
体重:3.42kg 体温:39.8℃ 心拍数:140/分
体重は平常時よりも減少しているとのことでした。下痢により体重減少しているので要注意の状況です。また熱発が見られました。腹痛は見られませんでした。
糞便検査
寄生虫卵等陰性でした。
血液検査
CBC(完全血球計算)では異常を認めず。Chemistry(血液化学検査)では下痢によると思われる脱水所見が見られました。しかし低アルブミン血漿等重症の腸疾患で見られる徴候は有りませんでした。他の項目に異常値は認めませんでした。
レントゲン検査
胃ガスは認めました。他に異常所見は認められませんでした。
レントゲン写真は左の写真が右側面像(No.3515)で右の写真が腹背像(No.3516)です。
腹部超音波検査
腹部臓器を評価しました。肝臓、脾臓、両側腎臓、両側副腎、膀胱、リンパ節は異常が認められませんでした。
しかしながら、十二指腸の壁の肥厚が観察されました。ちなみに胃と結腸は異常が見られませんでした。よって超音波検査により、十二指腸の異常が示唆されました。
上部消化管内視鏡検査
上部消化管内視鏡検査では胃は大きな異常が認められませんでした。まず胃底部の写真です。(0590)中心に見えるのは内視鏡です。
粘膜面には異常有りません。2枚目は胃体部の写真です。(0585)粘膜面の評価では異常を認めませんでした。3枚目は胃角の写真です。(0592)同様の所見でした。
幽門部分に異常を認めました。粘膜面に軽い出血が認められました。(No.0595)この場所は後に行なう病理組織検査の為に数カ所バイオプシーしました。
内視鏡を更に十二指腸内に進めました。十二指腸は著しい粘膜面の肥厚が見られました。また出血部位も広範囲に見られました。(No.0599)同部位を後に行なう病理組織検査の為に数カ所バイオプシーしました。上の写真は十二指腸です。左上に見えるのが大十二指腸乳頭です。粘膜面の腫脹が認められます。
更に十二指腸内を進めていくと、粘膜面からの著しい出血を認めました。(No.0600)同部位の粘膜面は大変弱く、内視鏡が通過しただけで粘膜面がはがれてしまい出血してしまいました。それも激しい炎症によるものと考えられます。
そして更に、鮮血便が気になりましたので、下部消化管の内視鏡検査も同時に実施しました。検査前に下剤を投与して大腸内の糞便を全て除去しました。大腸の粘膜面は側に異常を認めず、鮮血便の原因は明確には出来ませんでした。(No.0607)予測としては検査下部位よりもより上位にあるものと考えています。
病理組織検査
それぞれバイオプシーした検体を病理検査センターに送付し、病理組織診断を行ないました。
診断
リンパ球性プラズマ細胞性腸炎(重度)採取した十二指腸粘膜はリンパ球、プラズマ細胞の浸潤が強く認められました。
臨床的には炎症性腸疾患(IBD)とされると考えます。
治療
ステロイドを使用した抗炎症治療を行ないました。食欲は改善し、下痢は現在軟便となりました。まだまだ安心出来ませんが、しばらくの間は現在の治療を進めていくことになりそうです。
最後に
難治性の下痢を示したワンちゃんの紹介をさせて頂きました。
内視鏡検査は全身麻酔が必要になりますが、開腹手術と異なり侵襲性が低い反面、消化器の大きな情報が得られる検査です。観察部位と病理診断が出来る部位は粘膜面に限られることが多いので、粘膜面よりも深部の病巣は診断出来ません。よって検査方法の限界を把握しながら評価していく必要が有ります。