はじめに
体格の大きなワンちゃんが頻回の嘔吐を繰り返すということで、来院されました。
飼い主様のお話/臨床症状/検査結果から異物による消化器症状と判断しました。
内視鏡で摘出できれば良かったですが、結果的に開腹手術により問題の異物を摘出致しました。
今回の患者さん
フラット・コーテッド・レトリバーの6歳の男の子です。
突然の嘔吐症状と元気、食欲の消失で来院されました。
とても、元気一杯のワンちゃんで・・・
突然の発症でしたら・・・
「異物による消化器症状かな?」
と・・・
少々疑っておりました。
レントゲン検査
写真1(No.3001)
胃と小腸の中に多量のガスを含んでいます。何か有りそうですが、レントゲンで確認できる異常な物体は有りませんでした。
よって、1日経過観察を実施し、再度検査することになりました。
写真2(No.2001)
前日よりはガスの量が減りましたが、消化管内にはガスが多量に貯留しておりました。
でも、何か原因が有りそうです。
このまま様子を見るのは、良くない結果を生む可能性もあると感じ
追加検査を実施しました。
腹部エコー検査
腹部エコー検査を実施した所、異常が見られました。
写真3(No.0004)
胃の中に多量の液体が貯留しているのです。多量の液体の中に、白いひらひらと液体の中を動くものが・・・
既に嘔吐しており、胃内に食べ物が入っていないことを前提に考えると・・・
なにか、食べ物以外のものが有りそうです。
写真4(No.0006)
何が入っているんでしょうかね?
内視鏡検査
続けて、上部消化管内視鏡検査を実施しました。
胃内に、多量の液体が有り、まずはそれを除去しました。
そうしますと・・・
写真5(No.2640)
白いふわふわしたものが見られます。
布みたいです。
更に、胃の出口を観察してみます。
写真6(No.2670)
幽門部(胃の出口)にしっかりと布が入り込んでいます。
これを、内視鏡の鉗子で、摘んで切除しようと思ったのですが・・・
結果は失敗でした。
エコー検査で確認したとおり、十二指腸内にも問題の異物がしっかりと入り込んでいる様です。
よって、内視鏡で異物を摘出することは不可能と判断し、
開腹手術により、異物の摘出を試みることにしました。
胃切開による異物摘出
写真7(No.7332)
開腹時の写真です。胃を触ると異物が確認できました。触診で胃内に確認された異物をそのままたどって行くと・・・
あれっ?
何処まで続いているんでしょう?
十二指腸を超えて、回腸まで入り込んでいる!!
写真は、異物が小腸に入り込み、アコーディオン状に縮まった様子です。
パンツのゴムが極端に縮んだ状態とでも申しましょうか?
紐状異物が存在する所見です。
写真8(No.7334)
異物が最も強く引っかかっていた部分は、腸間膜にも重度の出血を起こしておりました。
このあとで、異物を丁寧に戻しながら、出来るだけ胃内へ穏やかに移動させました。
幸いですが、紐状異物となったタオルが腸に食い込み、引っかかっているというよりは、
穏やかに整復することで、移動させることができました。
最終的に、胃切開1カ所で、長〜くなった紐状異物を摘出することができました。
複数箇所を切開する場合も多々有りますので、切開部位が少ないことは術後の回復にも影響します。
結果
胃切開により摘出した異物です。
どうやら敷物に利用していたタオルだったみたいです。
写真9(No.7337)
ずいぶん長〜いタオルでした。
腸液で変色しておりますが、もともとは白いタオルだった様です。
術後も、合併症と見られる食道炎の影響で、吐出症状を示していました。
写真10(No.2645)
写真11(No.2642)
これは、来院前に、かなり頻繁に嘔吐していた様なので
逆流性の食道炎を起こしていたものと考えました。
最後に
今回は、内視鏡で摘出できなかった胃内異物→実は紐状異物による腸閉塞/通過障害でした。
ワンちゃんが、タオル等の敷物を食べてしまうという誤飲事故は多く見受けられます。
タオルを咬んでぼろぼろにしてしまう様なワンちゃんは
タオルを敷物に使用することは危険かもしれません。
どんなものを敷物に使用するのかを十分に検討する必要が有ります。
このワンちゃんは、当初は術後にも吐出や嘔吐も見られたのでかなり心配しました。
幸いにも、その後の術後の経過がよく、元気になってくれました。
本当に良かったです!!